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『最初に好きになった日本酒』

 今週、青森に行ってきた。温泉に行き心身ともに疲れを癒やすためである。酒蔵巡りではない。しかし、一軒だけ是非行きたい酒蔵があった。

 大学の頃、私の友人S君が日本酒の旨さに感動して目覚めてしまい、自宅でも吟醸酒を常備することにした。何やら近所に旨い地酒が置いてある酒屋があるとかで、彼のアパートに行くと青森の『駒泉 真心』が常備されていた。

 『真心という名前が素敵だぁ。この酒には真心が籠っている!』との彼の講釈に、私はうんうんと頷きながら呑んでいた。穏やかな吟醸香があり、清らかで柔らかな水を感じる優しい味の酒であった。

 私は大学を卒業してからホテルに三年半ほど就職したあと、家業の寿司店の別館オープンを前に開業準備のため強制送還させられた。日本酒選定の際に、是非S君の愛した『駒泉 真心』を置きたいと考え、蔵元から直送してもらうことにした。

 開店後のある日のこと、お客様が「責任者を呼べ」と言っていると仲居が血相を変えて私のところにやってきた。恐る恐る行ってみると、

お客様「この駒泉という酒はどうした?」

まるお「青森のお酒で……」

お客様「そうじゃない、なんでここにあるのだ?」

まるお「私が学生時代に友人と共に愛していた想い出の酒です」

お客様「この酒は東京より西にはないはずだ」

まるお「はい、蔵元に電話して無理を言って譲ってもらいました」

お客様「この酒は私の家の酒だ。私はこの蔵の息子で、跡継ぎは兄だが私は名古屋の会社で働いている。まさか、名古屋で自分の家の酒が呑めるとは思いもよらなかった!感動したよ」

 という感じの会話があって、それから長きにわたりその方にご来店頂き、大変お世話になったのであった。