· 

『木曽三川の温泉と地元グルメ』

 愛知県の蟹江から三重県の桑名にかけて、木曽川、長良川、揖斐川の木曽三川河口あたりに良い温泉が多いのはあまり知られていない。愛知県人が知らないんだから他県の方が知る由もない。このあたりの温泉施設が近年急速に相次ぐ閉館見舞われているので、温泉ソムリエマスター★として日帰り温泉ができる施設と共に周辺のグルメを紹介していこうと思う。

 蟹江にある『尾張温泉東海センター』は、県内有数の規模を誇る日帰り温泉施設で、大衆演劇の一座や演歌歌手が来館し賑わっている。午後1時からの開館なので、敷地内にあるお稲荷さんを参詣してみると、手水まで温泉である。泉質は弱アルカリ性の単純温泉(溶存成分635mg)である。6本の源泉を持ち、高温泉4本と低温泉2本を合わせることで適温にしていて、加温・加水なしの源泉掛け流しとなっている。浴槽の岩陰から出る温泉は若干のモール臭が感じられて嬉しくなる。単純温泉ならではの優しい温泉である。単純温泉は◯◯泉と名乗るには規定の成分量が不足しているが、様々な成分が少しずつ入っているマルチビタミンのようなものだと思っていただきたい。穏やかな泉質で湯あたりしくいので、赤ちゃんや肌の弱い人、お年寄りなどに向いているため家族みんなが入れる『家族の湯』といわれている。赤ん坊から老人まで家族総出で温泉旅行に行かれる場合は単純温泉を選ぶと良い。

 大規模施設は人が多くて混んでいるので嫌だという方や、もっと高温度がいいという方は、すぐ近くに『尾張温泉湯元別館』がある。ここは近くにある『湯元館』の別館で、あまり知られていないが500円払えば日帰り入浴が可能である。湯船は3人入れば満員になるほど小さいが、高温度の源泉がそのまま流入しており、東海センターよりかなり熱い。初め誰もいなくて、45℃ほどの熱い湯船に一人で浸かっていたら、地元のオッサンがふたり来て、「おー!にいちゃん、よーそんな熱い風呂に入れるなあ、ワシらいつもそこのホース使って水で埋めとるがや!」と言うので、この人達の後でなくて良かったと心から思った。我々温泉好きは絶対に水で埋めたりしない。成分が薄まるからである。以前に熱海駅前温泉で、私が入る前に若い兄ちゃんが「熱かったんで水で埋めときました♪」と満面の笑顔で言いやがって、強烈な殺意を覚えたことがある。ここはもちろん源泉掛け流しで、湯船が小さいためか東海センターよりも幾分お湯にフレッシュさがあり、わずかな硫化水素臭とこの地域特有のモール臭が感じられる。食堂も休憩室もないので、温泉から出ても寛ぐ場所が無いから、着替えたらさっさと帰らなければならない。

 高温度といえばかつて近鉄の富吉駅近くに『富吉温泉いづみの湯』という日帰り温泉施設があった。ここはあまり知られてない穴場の温泉で、加温、加水、循環、濾過なしの源泉掛け流しの温泉である。ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉で1463mgとこのあたりの温泉の中では成分も高い。肌を舐めるとしょっぱく感じる。朝5時から営業していて、一番で行くと源泉温度50℃がそのまま投入されている最中の湯船があり、さすがにこれには入れないが、10時くらいになると46℃くらいの丁度良い加減の高温度になる。その湯船が気に入って、足腰や肩の調子が悪いときは何度も出掛けていた。残念ながら4年前の2016年7月に閉館してしまった。湧出量が毎分957Lもあるのに本当に勿体ない.。私がお金持ちなら絶対に買い取るのだが。今でも源泉の湧出口が残っているので、誰か買ってくれないだろうか。

 この富吉温泉の近くに絶品の蕎麦屋『あさひ庵』がある。温泉の帰りにこの蕎麦屋に寄って酒と蕎麦で一杯やるのが楽しみであった。そのために楽な車を使わず、地下鉄や近鉄電車を乗り継いで行くのであった。この店で絶対に食べて欲しいのは誰が何と言おうが『おろしそば』である。出来上がるまで時間がかかるとわかっているので、にしんそばに使う身欠きニシンの甘露煮や蕎麦がきを肴に、熱燗をちびちびやりながらゆったりと待っている。暫くすると厨房の奥でシャカシャカシャカシャカと鰹節を削る音がする。40分ほど経ってようやく出てきた『おろしそば』は、おろしと雖もよくある大根おろしがポトンと乗っているものではない。辛味大根のおろし汁がツユに溶かしてあるのだ。蕎麦にはコシがあり、汁には大根の繊維は全くなく、辛味大根の辛さがキリッと鮮烈に効いていて衝撃的に美味いのである。二口目以降は、削りたての本節と、天かす、ネギを適宜かけて食べると良い。

 JR永和駅から徒歩で10分くらいのところに『永和温泉みそぎの湯』がある。温泉の入り口に小さな怪しすぎる宗教施設があって、初めて入泉する際は簡単なご祈祷をしてもらわなければならない。2回目からはご祈祷無しで入れる。1人200円の入浴料(賽銭)を払う。ここは一般の人には知られていないが、温泉好きなら誰でも知っている憧れの湯である。温泉マニアの雑誌『温泉批評』で『へんな名湯番付』でぶっちぎりの西の横綱になっている。まさに全国に名だたる秘湯なのである。2人入ったら狭い、金魚を養殖するようなコンクリートの湯船が3つある。完全源泉掛け流しで、右奥の湯船に源泉がゴムホースで入れられており一番熱い。左手前の湯船が一番ぬるく寝湯もできる。源泉が48℃以上あるため、3つの湯船を通ることにより3段階で自然に適温にさせている。こんな小さな温泉で、湧出量が1分間に1300Lあり、1日に1300人を衛生的にまかなえる湧出量であるのに、客はひとりの事が多くいつも独泉状態である。見た目とは違い意外に優しい肌触り、ほのかなモール臭、ホースから出る源泉は僅かに硫化水素の香りがある。溶存成分1291mgのナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉で、ホースの源泉を痛いところなど患部に直接かけるとよく効く。

 国道23号線沿いに『弥富温泉(弱アルカリ単純温泉425.4mg)』はある。ここは以前『フーバー』という全室温泉付きラブホテルであったが、今は新装オープンして『NUQU』というやはりラブホテルになっている。変わらず全室温泉完備でしかも源泉掛け流しである。妻に内緒だが、どうしても温泉に入りたくてフーバー時代に行ったことがある。食べ物も充実しているから、一人で温泉に入って家族や仕事から逃避行するのも良いが、くれぐれも文春砲には気をつけるように。現在の『NUQU』では女子会プランもある。なぜ男子会はないんだ!

 木曽岬町は木曽川の最河口部に新田開発された地域である。てっきり愛知県だと思っていたら、実は三重県である。まあ、愛知県人の中には長島温泉も愛知県の植民地だと思っている人もいる。木曽岬町には『ゴールデンランド木曽岬温泉』という大きな施設があったが最近閉館してしまった。駐車場が広大で、施設内に入るといきなり大きなステージと広いお座敷があり、かつては芝居の一座や演歌歌手なども来ていたのではないか思われるが、相当長い間使われていないようであった。浴場もかなり古く、あまり衛生的とは感じられなかったが、お湯は単純温泉ながらも高温度の源泉掛け流しであった。

 弥富の手前には鯉料理の店が何軒かある。国道23号線沿いにある『中京』では、他の鯉料理店では見られない『鯉のないぞう』という料理がある。ここでは、まずこれを食べなければ始まらない。名の通り鯉の内臓の様々な部位を茹でただけのもので、特製のタレにつけて食べる。結構大量に出てくるが、たったの300円くらいと超安い。これをつまみながらまずはビールを呑み、鯉の洗いや鯉唐揚げ、鯉こくなどを待つ。単品料理は一品ずつの量が多いので、2名くらいならセットのほうがいいかもしれない。

 江戸時代、鯉は鯛よりも上等とされていて、滋養強壮にも良いことから大変重宝されていた。時代劇ドラマ『暴れん坊将軍』でも、貧しい家の子供が父親の病気のために江戸城のお堀の鯉を盗るという話があった。優しい新さん(吉宗)は、内緒で城内の池に連れて行ってやるという……あれは名作であった。

 『中京』は大衆向きの鯉料理屋であるが、多度大社の近くにある『大黒屋』は鯉料理の高級料亭である。大黒屋は今から280年ほど前の江戸中期に多度大社への参拝客や旅人のための茶屋や旅籠をしていた。鯉料理を出すようになったのは約180年前である。かなり古くて立派な佇まいで、敷地は奥が広く、大きな庭園と池が荘厳で、超高級料亭の雰囲気を呈している。鯉づくしのコース料理はどれも繊細であるが、なんといっても鯉こくが絶品で、この上品でコクが有り滑らかな舌触りの鯉こくは、『今まで食べてきたのものは一体何だったのだろうか?あれはただの鯉の味噌汁だったのか……』と悩んでしまうほど素晴らしい一品であった。

 この地区で規模も知名度も最大の温泉は紛うことなく『長島温泉』である。長島温泉は、昭和38年(1963年)、天然ガスを探査していたところ温泉が湧出した。本来の事業である天然ガスが思ったほど出なかったため、本格的に温泉の掘削に転じた。泉質は基本的に単純温泉だが、源泉によりナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉 になる(R-15,16,20号泉)。総湧出量は1日あたり1万トン以上(毎分約7000L)といわれる。長島観光開発が所有する源泉は、長島温泉R-2,3,5,20,23号泉の5本である。『ナガシマスパーランド・湯あみの島(R-2,23号混合泉)』『なばなの里・里の湯(R-20号泉)』『ホテル花水木・滝の湯(R-3,5号の混合泉)』『ガーデンホテルオリーブ・オリーブの湯(R-3,23号混合泉)』『湾岸長島パーキングエリア上下線足湯(R-3,5号混合泉)』で使用されており、ほかに名鉄協商が運営する日帰り温泉施設『クアハウス長島(R-8号泉)』、2つの地元民用の共同浴場『松ヶ島共同浴場、大島共同浴場(いずれもR-15,16号混合泉)』『長島中央病院(R-6号泉)』がある。かつてクアハウス長島の隣に同じ名鉄協商が所持する『オートレストラン長島(R-7,8号混合泉)』という温泉施設があって、トラック運転手に人気だったが閉館している。 

 揖斐川と員弁川の間の海沿いに『桑名温泉元気村』という温泉施設があったが、ここも最近閉館した。以前は送迎バスがあったが運行しなくなり、車でしか行けなかったので非常に不便であった。源泉掛け流しではないが、一部源泉が出ていて、上がり湯にすることができた。成分は濃くて、1400mgのナトリウム-塩化物泉である。

 桑名といえばやはり蛤である。『日の出』など蛤料理の有名店にも行ったことがあって、もちろん素晴らしいのだが、地元タクシーの運転手さんが安くて美味しい蛤屋さんがあるというので行ってみた。桑名駅の近くの『はまぐり食道』は、リーズナブルに蛤料理が楽しめるお店だ。メニューはシンプルで、定食は、はまぐりセット(志ぐれ茶づけ・やき蛤・はまぐりフライ・蛤吸物・香物)2,700円、はまぐりフライ定食2,200円。単品の蛤料理は、やき蛤、はまぐりフライなどがある。蛤料理以外もうなぎやトンカツもある。

 キッチン寿は桑名の揖斐川沿いにある。キッチンとはいうけど佇まいは和風建築である。メニューは洋食と和食の両方で100種類以上と充実していて、ちょっとワクワク感のあるお店である。蛤料理は、焼蛤、蛤鍋、蛤酒蒸し、蛤カレー、蛤グラタン、蛤フライ、蛤スープ、蛤赤だし、蛤吸い物などがある。和食、洋食の両方共しっかりしたメニュー構成なので、家族と来るとより楽しめそうである。

 蛤は在来種(地ハマという)はむしろ少なく、韓国産や中国産が非常に多く出回っている。みなさんが普段食べているハマグリはまず100%韓国産だと思って間違いない。我々も在来種を買うときは『地ハマ屋さん』で買う。貝殻を見れば国産か韓国産か一目瞭然にわかる。ハマグリの種類は3つあり『ハマグリ』『チョウセンハマグリ(朝鮮ではなく汀線)』『シナハマグリ』がある。『チョウセンハマグリ(朝鮮ではなく汀線)』は、在来種で別名『ゴイシハマグリ』と呼ばれ、貝殻は有名な『日向のハマグリ碁石』という碁石の原料にもなる。『汀線』というのは『波打ち際』という意味。『シナハマグリ』は、韓国や中国から輸入されたもので、現在最も流通している。ただし、国産でも韓国の『シナハマグリ』の稚貝を輸入して海に撒いている場合があるため、『国産物のシナハマグリ』もあれば、在来種との『混血ハマグリ』も存在する。在来種とシナハマグリの見分け方は、在来種の『ハマグリ』や『ショウセンハマグリ』は『殻に艶がある』『模様は黒系・白系・茶系など色々』である。一方、韓国や中国から輸入された『シナハマグリ』は、『殻の表面に艶がなくざらついている』のと、色合いや模様は多様だが『柄が無い』か、もしくは『点とジグザグ模様』のものが多い。在来種とシナハマグリでは市場価格が全く違うので、安いからといって手を出すとシナハマグリの場合がある。ただし、味にはそれほど差がないと言われている。また、国産でも汽水域(海水と真水が混じった水域)のものかそうでないかによって味が違い、汽水域のものは身が柔らかいが、海水域のものは身が固いという。千葉から入荷するものは海水域で身が固いという。

※現在『尾張温泉東海センター』では、ショーなどは開催していないようです。

 

<長島温泉源泉一覧>

長島観光開発(R-2,3,5,20,23号泉の5本使用)

 ・ナガシマスパーランド・湯あみの島(R-2,23号混合泉)

 ・なばなの里・里の湯(R-20号泉)

 ・ホテル花水木・滝の湯(R-3,5号混合泉)

 ・ガーデンホテルオリーブ・オリーブの湯(R-3,23号混合泉)

 ・湾岸長島パーキングエリア上下線足湯(R-3,5号混合泉)

クアハウス長島(R-8号泉)

オートレストラン長島(R-7,8号混合泉)※閉館

松ヶ島共同浴場(R-15,16号混合泉)

大島共同浴場(R-15,16号混合泉)

長島中央病院(R-6号泉)

永和温泉みそぎの湯

尾張温泉湯元別館

尾張温泉東海センター

木曽岬温泉(閉館)

桑名温泉元気村(閉館)


あさひ庵・おろしそば

あさひ庵・本節削り

あさひ庵・にしん

あさひ庵・蕎麦がき

中京・鯉のないぞう


中京・鯉の洗い

大黒屋・鯉こく

はまぐり食道・焼き蛤

キッチン寿・蛤グラタン

キッチン寿・蛤酒蒸し


ハマグリ

ハマグリ

汀線ハマグリ

シナハマグリ

シナハマグリ