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『讃岐うどんとは何か』

 先日一泊二日でうどんの国香川県に行ってきた。もちろんうどんを食い倒すためである。私は江戸っ子で(ウソ)、元来蕎麦喰いなので、普段あまりうどんは食べないが、仲間が讃岐うどんの素晴らしさを目を輝かせて語るのでプチツアーを企画したのだ。人気のうどん店は車でしか行けないところも多く、私はひとり運転手として、仲間が酒を呑むのを横目に、ひたすら我慢しなければならないのでないかと少々不機嫌な気持ちになるかと思ったが、酒が置いてあるうどん屋はほとんどなく、純粋な心で皆がうどんを楽しむこととなった。私はあまり食が太い方ではないので、1日3軒いけるかどうかかなと不安だった。なので、なるべくたくさんのお店を周れるよう、自分にルールを設けた。うどんのサイズは必ず『小(1玉)』を注文し、どんなに美味しそうでも天ぷらや卵などのトッピングは絶対しない。おかげで、予想を超えて10軒を巡ることができた。また各店の評価が公平にできるよう、麺はすべて『冷』にした。

<さぬき市>まるたけ

<高松市>穴吹製麺所、宮武うどん、池上製麺所、一福

<まんのう町>三島製麺所、小縣家、山内うどん

<丸亀市>麦香

<琴平町>こんぴらうどん

 10軒巡ったうどん屋はどこも個性的で、一つとして同じうどんは無かった。麺が違う、出汁が違う、メニューが違う。一般に讃岐うどんは、コシがあってしかも硬めで、見た目もエッジが効いていて……というイメージである。しかし実際は、店によってコシも硬さも舌触りも違い、すべての店の麺にエッジが効いているわけではない。ある店はモチモチとしたコシはあるが硬くはない、逆に硬いけどコシはないという店もある。ツルツルした喉越しの良い店もあれば、人気店でも喉越しがいいとは限らない。なんと麺が柔らかい店もある。これも讃岐うどんなのか……。出汁は、香川らしく『いりこだし』がきいている店もあれば、かつおだしの店もある。さらに戸惑うのが、メニューの名称である。各店によって同じうどんなのに名称が違うのだ。例えば、冷たい麺に冷たい汁をかけたものは『冷やかけ』という店と『ひやひや』という店がある。冷たい麺に温かい汁をかけたものを『冷あつ』と言ったり『ぬるいうどん』という店もある。醤油うどんしかない店は、単に『温』か『冷』をきかれるだけということもある。また、『温』か『冷』をきかれたが、醤油うどんじゃなくてかけうどんの場合もある。讃岐初来訪の旅行者はかなり戸惑うことになるが、毎度のことで店員が慣れているのか、どの店もやさしく教えてくれるので安心してよい。

 さて讃岐うどんの定義とはなんなのか?実は『讃岐うどん』という名称は自由に使っていいのだ。香川県で製造されていなくても名称を使用することができる。そうでなければ県外のうどん店は讃岐うどんを一切名乗れなくなってしまうからだ。丸亀製麺とか全滅である。ただ、讃岐うどんの名称に加えて『本場』『名産』『特産』という文字を使用する場合(例えば、『本場讃岐うどん』とか)、以下の製法を守らなければならない。

①香川県内で製造、②手打ち式か手打ち風、③小麦粉量に対して40%以上の水分、④小麦粉量に対して3%以上の食塩、⑤2時間以上の熟成時間、⑥約15分のゆで時間(しっかりとアルファ化されていること)。

 さて、香川に行かずとも名古屋で美味しい讃岐うどんが食べられるお店がある。千種区今池にある『麦福』さん。ご主人は高松市の一福(いっぷく)で修行された方である。一福は若干の細麺でモチモチしたコシとツルツルした舌触りでバランスのよい麺である。麦福さんは、それに喉越しが加わり、本家よりうまいのではないかと私は感じる。ここは、うどん屋さんなのに日本酒がたくさん揃っていて、品揃えも偏りがなくてバランスが良い。日本酒を呑みながら天ぷらやつまみを食べて、最後にうどんで〆るのがこの店の『まるお流作法』である。歩いていけるご近所さんだから5時間も運転する必要がないし、安心して酒が呑めるから、もうノンアルコール地獄の讃岐まで行かなくてもいいかなと思ってしまう。