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『一番美味しいお酒は何ですか?』

 お酒の講座をしていると、受講者から必ず出る質問がある。

「先生が思う一番美味しいお酒(ワイン)って何ですか?」

 一般の人と違い、酒の仕事をしていると、まず『好み』というものがなくなってしまう。どんなタイプの酒でもその良さを語ることができなければ講師は務まらないからだ。だからタイプで好き嫌いを言うことはない。

 次に、特にワインに関してだが、価格に関わらずワインを愛する心を持っていなければいけない。もちろん私はロマネコンティやボルドー5大シャトーなどあらゆる高級酒を、しかも一九二〇年代から飲んでおり、素晴らしいワイン達に出会ってきたが、家ではコンビニで買ったパックワインを愛飲しているのだ。

 また、美味しいワインの定義にこんなものもある。たしかイギリスのワイン評論家ヒュー・ジョンソンが、『飲んだワインの量が多いほど美味しいワインだ』と言っていた。普段、ボトル半分しか飲めないのに、一本飲めちゃったというようなワインが良いワインであるということだ。確かに、講座で他の酒より早くなくなる酒がある。ああやっぱり旨いからなんだろうなあと黙って見ていることがある。 

 結局、美味しいお酒の質問にはいつもどう応えるかというと……

 フランスの著名なワイン評論家アンドレ・L・シモンは、「あなたの一番美味しいと思うワインは何ですか」という記者の質問に、「それは……、思い出のワインだよ」と言っている。

 そういえば、私が男友達と二人でニースに行った時、海岸を端から端まで歩いてやっと見つけたホテルのバルコニーで、夕焼けをバックにして飲んだコート・ド・プロヴァンス・ロゼが人生最高に美味しかった……今でも忘れられない。

 『酒は何を飲んだのではなく、誰と飲んだのかが重要なのだ』

これはまるおの言葉ね。