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『果物についての勝手な感想』

講座のテキストで『くだもの歳時記』というのを書いていたら、いろんなことを思い出したので、一部だけこっちにも書き記しておく。

 

 私の小さい頃に食べたイチゴは今ほど甘くなく大きくもなかった。今となっては小粒と言える苺に砂糖をぶっかけ、牛乳をドバドバかけて、スプーンの裏側で潰して食べるのが好きだった。いつの間にかイチゴは甘味が増し、これでもかと大きくなったので、何もつけずにそのまま手にとってかじることができるが、なぜか物足りない。今のイチゴはなんか水っぽいし、決定的に酸味のバランスに欠けているのではないかと思う。甘けりゃいいてもんじゃねえな。それに、白いイチゴが最近良く出ているが、あれは物珍しいが不味い。

 

マスクメロン

 静岡のマスクメロンは「富士」「山」「白」「雪」「Ⓐ」という等級があり、形、糖度、大きさ、ネット(網目)の張り具合などでランク付けされる。「富士」は鑑評会で賞をとるようなメロンで滅多にお目にかかれない(1000個に1個あるかないか)が、「山」や「白」は一般的に買うことが出来る。「雪」は主に加工品になってしまうからかえって見かけない。「Ⓐ」はキズ物で、ある意味お買い得品である。『富士の御山に白い雪』と覚える。

 私が飲食店をやっている頃、フランス人が来て、デザートに『メロンのコニャック(ブランデー)ぶっかけ』を出したら、彼は「君はメロンの食べ方をよく知ってるね!」と褒めてくれた。

 

さくらんぼ

 品種は佐藤錦が有名であるが、佐藤錦も高砂が植わっていないと実がならないという。私が好きな品種はレーニア(レイニア)である。アメリカンチェリーの一種で、レーニアは外見が佐藤錦に近く、甘みが非常に強く身も大きくて美味しいが、栽培中に鳥に食べられる確率が高く、アメリカでもイギリスでも日本でも世界的に高価なものになっている。一時期日本でも山梨か山形で生産されていたと思うが、最近は全く見ないな。

 たいそうな箱に入った佐藤錦があるよね、さくらんぼが2段になって収まっているけど、見えない1段目は腐っていることもあるから気をつけたほうがいい。農家にもそういう嫌なやつがいるってこと。

 

 高校時代の恩師はよく我々の高校生としての素行について語るとき、『李下に冠を正さず』と言って、意味を説明してくれたものだ。『冠の位置を直そうと手を上に上げたら、たまたまスモモが上になっていて、泥棒だと思われた』つまり、疑われるようなことを初めからするなという意味である。言い換えれば冤罪も罪に問われることがあるということだ。今もその教えを守っている。

 

 アンズは、日本酒やワインの香りの表現にもよく使われるから、生をしっかり食べてみたいがなかなか機会がない。ドライフルーツではチーズの付け合せによくみられるけど。

 

マンゴー

 マンゴーは誰が何と言おうが『宮崎のマンゴー』に限る。沖縄産は少し劣る。宮崎マンゴーの中でも『太陽のタマゴ』は最高に美味い。全く繊維質を感じず、なめらかで舌に溶けていく感じで、甘味は上品で繊細である。マンゴーを買う時はなるべく全体が赤いものを買うと良い。黄色い部分のあるものは、太陽が当たらなかった部分があるということで、糖度が落ちる。まんべんなく太陽の陽を浴びた全体に赤いマンゴーが美味いのである。

 

パイナップル

 最近、台湾産パイナップルが中国の嫌がらせで輸入を止めたとかで、日本に大量に台湾のパイナップルが入ってきた。いままで食べていたフィリピン産の安いパイナップルより、台湾産の高いパイナップルのほうが糖度が高いらしい。また台湾産は芯まで食べられるという。パイナップルは好きだが、私は缶詰で十分である。なぜなら、生は切るのが面倒くさいからだ。

 

西瓜

 夏といえばスイカであるが、私はスイカは滅多に食べない。元々、果物は『桃』『梨』『オレンジ』しか食べないのである。しかも、剥いてくれないと食べない。

 スイカを食べないのは、量が多くてお腹を壊しそうだし、まずいやつは本当にまずいからだ。舌がざらついたり、水ぽかったり、青臭かったりするのが嫌なのである。しかも、頻繁に種が出てきて、いちいち口から出すのが面倒くさいから大抵種ごと食べて、時々ガリッと言いやがって、本当に迷惑な果物である。スイカが出てくるたびに、「こちとら、カブトムシやスイッチョンじゃねえんだから、こんなに食えるかよ!」って言ってたわ。

 また、『スイカ割り』というやつがたまらなくイラつく。食べ物を粗末にすることこの上ない。砂のついた汚い棒で叩いてグシャグシャにして、砂混じりの生温かくなったグシャグシャのスイカを食べる人のことが信じられない。

 

枇杷

 私はビワは食べない。手が汚れるからだ。しかも種がでかくて、心が寂しくなる。手はビショビショになるわ、食べごたえは無いわ、それで嫌なのである。子供の頃、家の庭か祖父母の庭か、他人の家だったかにビワの木があって、勝手にもいで食べていたから買って食う気にはならない。

 

 私は桃が好物である。中でも『岡山の白桃』は別格である。まず見た目が真っ白で、雪のようで美しい。舌にのせた時の滑らかさといい、上品な甘味と香りといい……、これに並ぶ果実は無いといって良い。『白鳳』とは全く次元が違う。しかし私は白鳳も好きだし、晩夏に出てくる黄桃も好きである。楊貴妃や孫悟空が食ったの食わねーのという中国の蟠桃も食べたことがあるが、身が少なくて物足りない。

 

 家の庭に梅の木があって、毎年梅がなっていた。ただし、収穫量は隔年で多くなったり少なくなったりである。しかも、しっかり受粉活動をしてあげなければ豊作は望めない。その梅で梅酒を漬けるが、私は一度も飲んだことがない。なんとなく庭に生えた梅の木の梅は嫌なのである。

 

パパイア

 「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」は、中原めいこが1984年にリリースした6枚目のシングルである。私が大学生のときだ。なぜか題名がいやらしいと思った。多感な時期である。ところで、パパイアとレモンの相性は驚くべきものがある。レモン汁をかけた時とかけない時の差があれほど違う果物もないであろう。

 

マンゴスチン

 これも名前が卑猥だわな。いつも、マンゴスチンとライチ(レイシ)とランブータンの区別がわからなくなる。そして、味もどんなんだったけ?と忘れている。ワインと焼酎の仕事をやっているので、ライチだけはわかる。マスカット種のブドウ、特にゲヴェルツトラミネールはライチの香りがするからだし、芋焼酎にも同様の香りがあるから。でもマンゴスチンもランブータンも忘れてしまっている。まあ、どっちでもいいけど。

 

林檎

 小学校の頃、近所に朝だけ来る露天の八百屋があって、母親に「キングスターというリンゴを買ってきて!」と言われ、八百屋のおっさんにその旨を告げた所、「スターキングだろ!」と大笑いされ、ついでに近所のおばさん連中にまで大爆笑された嫌な経験がある。いたいけな幼心が無神経な大人たちによって大いに傷ついたのだ。それでなのか、私はリンゴは食べない。剥いてくれても食べない。まず食感が好きではないし、大して甘くないからである。すごく蜜がいっぱいで甘いよと言われても、言うほど甘さを感じない。やっぱり食感が嫌なんだろうな。ところが、アップルパイは大好物で、特にタルトタタンには目がないが、美味しいタルトタタンをもう30年くらい食べていない。さらに、リンゴのブランデーであるカルヴァドスを愛している。しかも、学生時代からの愛だ。あまり愛しているので、友人が新婚旅行でカルヴァドスを買ってきてくれたが、一口飲んであまりの不味さに、すべて台所の流しに捨ててしまった。一番安いやつ買ってきやがったな、あの野郎。元々カルヴァドスは安酒なので、現地で買えば相当安いやつがあるはずだから。

 

 私はナシが大の好物である。冷やしてあって剥いてくれなければ食べないけど。昔は長十郎とか幸水が主流だったけど、『二十世紀』というやつが出た時はびっくりしたねー、不味くて。大体、あの色が気に入らない。なんか気取ってやがって、和梨じゃないみたいだし、ちょっと食感が違う。でも、最近『二十世紀』を食べることがあったけど、あれっ?っていうくらい美味しかった。農業技術も進歩してるんだね。

 

 小学生の頃まで祖父母の家に甘柿がなっていたので、秋になると竹の棒の先を少し割って割り箸くらいの木の枝を挟んで、その棒で収穫したのを覚えている。柿も隔年の収穫で、毎年なるものではなかった。

 お店をやっている頃、秋になるたびに「固い柿」が食べたいと文句を言う老人の客がいたが、市場で販売している柿は当然食べ頃のもので固くはない。きっと、小さい時自分で採った固い柿に思い出があるのだろう。

 それから、世界一美味い柿は岐阜の『蜂谷柿』だな。渋柿を焼酎につけて渋みを取り、とろとろのゼリー状になったやつがこの上なく甘露で美味い。まあ、名前がかなり気に入らねえが。

 

石榴

 ザクロは家の庭に木があって、何個かなる年もあれば、全くならない年もあった。ある年、1個だけザクロがなったのだが、悪いことに木の枝が塀を越えて外の歩道に伸びて、ちょうど手の届くところでブラブラしていた。大きくなるにつれて通行の邪魔になっていたが、母親がそのザクロに『とらないでください』という札をつけていたが、身がはじけてしまったので、やむなく母は自分で収穫していた。

 

葡萄

 私はワイン好きだが、思い起こせば小さい時、喫茶店に連れて行ってもらうと必ずグレープジュースを飲んでいた。ブドウはデラウエア以外は食べなかった。巨峰やマスカットは皮を剥かなければならないし、当然手が汚れる、また種もあるから、面倒くさくて嫌だった。ところが、最近の大粒系のブドウは皮を剥かなくても食べられし、種もない。これは私のような無精者が世の中にたくさんいたということだ。そうでなければ、技術進歩はなかったであろう。

 

西洋梨

 今は聞かないが、洋梨の品種に『ブランデーワイン』というのがあった。店のお客にフルーツ屋がいて、その洋梨を安く買ってくれという。洋梨の足の速さを知らない親父が何十ケースと大量に購入したが、案の定たった1日で腐ってきた。『ブランデーワイン』という品種は、洋梨の中では特に腐るのが早い品種だったのだ。客とはいえ、フルーツ屋にまんまと食わされたわけだ。元々、その客はまっとうな筋の人ではないので、断れなかったのだろう。あっちの人には近づかないことだ。

 

蜜柑

 私はオレンジは食べるが、ミカンはあまり食べない。そのくせ、どのミカンが美味いか不味いか、触って見ればすぐにわかる。すぐにわかるから、不味そうなら食べない。そのかわり、焼酎のロックにミカンを半分に切ってそのまま入れて飲むことがある。ミカンの香りが焼酎に爽やかさを与える。ジンやウイスキーを飲むときも時々やる。

 



佐藤錦

太陽のタマゴ

黄桃

白いイチゴ

月山錦


ジンと蜜柑

マスクメロン

ブランデーワイン

自作の柿とり棒